奈良県吉野の金峯山寺をスタートし、和歌山県高野山の金剛峯寺をゴールとするトレイルランニングレース「Kobo Trail」(K to K)。
そのルートは、約1200年前に若き日の空海が歩いたとされる「弘法大師の道」の復活させたものです。
「吉野より南へ1日、西へ2日に歩き、高野を見つけた」
2025年5月18日、僕は伝説となったその足跡を巡る55kmの山の旅に参加しました。

法螺貝の号砲で始まる“祈りのレース”
スタート地点の金峯山寺では、僧侶による法螺貝の合図でレースが始まります。
参加者は白を基調としたシャツに身を包み、どこか清廉な雰囲気が漂っていました。
これは単なる競技ではなく、祈りと自然と身体の対話——そう言った方が近いのかもしれません。


前半は、大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)をたどります。
修験道の修行場であり、世界遺産にも登録された神聖な山道。(関連記事はこちら)
苔むした岩、朽ち果て横たわる巨木、霧に包まれる稜線。足音だけが静かに森を揺らします。

コースは“直登祭り”、ピークをいくつ越えただろう
コース上の最高峰である大天井ヶ岳を越えると、ルートは西に折れ、高野山の方向へ。
ここからは、ひたすら直登の連続。登れど登れど次の山が現れるコースを、ある人は「わんこ蕎麦状態」と表現しました。
幾つのピークを越えたか覚えていません。結果的にGarminのデータはD+4000mとなっていましたが、それすらも一種の儀式のように感じました。
山に試されているような、山と語り合っているような、そんな感覚。

それでも、森の緑はどこまでもやさしかったです。
力強くて、静かで、何も求めてきません。
ただそこに在り続けてくれる——そういう存在に、僕たちは生かされているのだと思いました。
高野山で手を合わせ、47都道府県を“足で制覇”

ゴールは、高野山の壇上伽藍です。
走り終えたその足で、すぐにお参りをします。深く息を吸い、手を合わせました。
疲れを超えた場所で、人は何かに触れるのだと思います。達成感とは少し違う、もっと静かで、透明な感情でした。
そして今回、僕は人生で初めて和歌山県に“足を踏み入れました”。たまたまですが、これで47都道府県を制覇。
55kmという距離は、ただの数字ではありませんでした。
それは、空海の物語を追体験し、森に包まれ、祈りに触れ、そして自分自身に出会う旅でした。

旅はつづく