2022年3月、沖縄本島の南西300km、宮古島の離島の伊良部島を旅ランしました。
伊良部島
2022年3月、宮古島の離島で友人が営む宿、sora niwa hotel and cafeに滞在して、一人でのんびり休暇を過ごしました。
島の環境とゆっくりと流れる時間は、長年積み重ねてきたことから離れて、人生を立ち留まり、思い巡らす好機となります。
南国特有の太陽と雲の下、透き通った海、力強く伸びるウージの林、琉球石灰岩の台地をのんびり駆け抜けながら、海、自然、歴史、風土に触れました。
Day 5「島一周」ラン
いよいよ今日は伊良部島を一周してみます。
沿岸を一周すると40キロになるそうですが、海沿いとは言え、大半が背の高い植物に海と隔てられた殺風景な道を走ることになります。
そこで今回は、佐良浜漁港から島の中央を東西に横断して、名勝の佐和田の浜に向かい、そこから下地空港によってホテルに戻るコースを走ることにします。距離は20キロくらいです。
午前中はホテルで朝食をとってから、部屋でのんびり読書したので、今日は昼すぎからのスタート。
すでに気温も20℃くらいに上がっているので、水分を携行して熱中症に気をつけて走ります。
漁民の町
まずは佐良浜漁港を目指します。
この佐良浜漁港のあたりは漁民の町と言われます。
カツオやマグロの水揚げが行われる漁港の周囲に漁師さんたちが暮らす地区で、魚市場やダイビングショップなどがあります。
漁港を見下ろす山側には、傾斜地に張り付くように住宅が隣接して建っています。
屋根の色が違えば地中海ギリシアの島のような佇まいです。
この漁民の暮らす町の路地は、ちょっとした迷路のように入りくんでいます。
車一台ギリギリの幅の路地を運転するのは大変ですが、ジョギングで走り抜けるのには問題ありません。
まるで異国の路地裏に迷い込んでしまったような感覚に陥ります。
家の造り、壁の色、植物の種類と、一昔前にタイムスリップしたような雰囲気が、そのように感じさせてるのでしょうか。
そして、路地から見下ろす独特のアギヤー漁で有名な濃いブルーの海原が、美しくも荒々しい男性的なロマンを醸し出します。
小さな離島の中の二つの民
ところで、ここが漁民の町と呼ばれるのは、島の反対側で主に農業を営む人たちと、単に生業が違うことだけが理由ではありません。
もともと先に伊良部島に住みはじめた人たち(農民)と、あとから別の島から移り住んできた人たち(漁民)。
二つの民は、ルーツが違えば、生活や習慣も異なるそうです。
南国の小さな島の中に二つの民族が存在しているような話を聞いたとき、正直なところ僕は最初に、誇張が入った少し大袈裟な話のように思いました。
ところが、ジョギングしながら漁民の町から農民の町へと移動してみると、まず二つの町は少なくとも地理的には隔たりのようなものがあることを体感しました。
それは河川や山ではなく台地で区切られ、しっかりと境界線が存在している感じです。
つぎに、実際に目にする二つの町の雰囲気は、家のつくりや大きさをはじめ、ずいぶんと様子が異なります。
そして、それぞれの町の中で見かける人々の顔や様子も、どことなく異なるものがあります。
最後の点は僕の主観も入ってますが、小さなひとつの島の中にまるで二つの国が存在するような、そんな感じすらあるのです。
仮に、この島でしばらく暮らしてみたら、このようなことをもっと確実に実感するのだと思います。
今回は短い滞在ながら、二つの町を自分の足でゆっくりと走ったからこそ、これを感じ取ることが出来たのではないかと思っています。
農民の町
さて、ランニングの話に戻ります。
佐良浜地区から海を背にして台地を駆けあがると、そこには広大なサトウキビ畑が広がっています。
この先は農民の町です。
畑の中をまっすぐに伸びる道をひたすら走って島を横断します。
長く真っ直ぐな一本道の途中、原付バイクに乗ったおばあが後方から僕を抜き去った後に、何か思ったらしく、わざわざバイクを止めて声を掛けてきました。
「あんた、どこへ行くん?」
「あれ、うちの隣の○△ちゃんによく似ているなぁ」
「あの子は走るのが速くて、那覇に行ったんだよ」
「暑いから気いつけてな」
こんな感じで、僕に向かって一方的に話し掛けた後、気が済んだのか、立ち去っていきました。
「あのおばあは、漁民なのか農民なのか、どっちなんだろう」と、しばらく考えながら走りました。
僕の中では結論には至らずじまいでした。
佐和田の浜
島の中央を横断すると、伊良部島のハイライトの一つである佐和田の浜に到着します。
僕は佐和田の浜の手前で商店に立ち寄り、そこで島の菓子パンを買いました。
ベンチに座り、佐和田の浜を眺めながら、おやつを頬張ります。
近くの現場で働いている地元のお兄さんも、岩場に腰掛け海を見ながら遅いランチをしています。
佐和田の浜は、数百メートル四方におよぶ膝丈の水深の「超」遠浅の浜です。
昔、島を襲った大地震の後、この遠浅の入江にたくさんの大きな岩が打ち上げられ、佐和田の浜は点在する無数の奇岩が織りなす唯一無二の景勝地となったそうです。
とても美しくて、そして見れば見るほど不思議な光景でした。
おやつを食べ終えると、足を海水につけて、百メートルほど沖へ向けて歩いてみました。
かつて鏡のようなのっぺりとした静かで美しい入江に、突然一夜にして奇岩が出現した朝のことを想像してみました。
初めにその光景を目にした島の人々は、神か悪魔の仕業としか思えなかっただろうと思います。
きっと自然への決定的な畏怖の念が植え付けられたことでしょう。
下地島空港
最後の寄り道は下地島空港です。
ここはかつてはパイロットの卵たちがタッチアンドゴーと呼ばれる離発着の訓練を行なうことで有名な空港でした。
それが今は、日本初のリゾート空港として、近隣の台湾や中国のインバウンドを期待して生まれ変わ理、お洒落な飲食店や施設のピカピカな場所になっています。
コロナの影響で観光客は少なめですが、それでも東京からLCCやプライベートジェットで飛んできて、伊良部島の高級リゾートまで車で10分の距離は魅力的です。
島の中はどこに行ってもノスタルジックな雰囲気が強くて落ち着くのですが、この空港の中はまったく違う都会的な世界になっていて、汗まみれのTシャツとラニングシューズ姿の僕には、居心地の良い場所ではありませんでした。
下地島空港を後にして、一度走ったことのある国仲地区を通り抜けてホテルへと戻ります。
こうして、距離21.5km、2時間ちょっとの島一周ランを楽しんだのでした。
旅はつづく。(沖縄の伊良部島、たびランしました。【おまけ】)